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「ねじまき鳥クロニクル」

ふとした思い付きで読み返そうと手にとった。
物語はイタズラ電話から始まっていた。
そんな!予想してなかった。忘れていた。
そしてそこには現実の、知ってる人がいた。10年ぶりに読み返して、この10年の間に会った、10年前のわたしの世界にはいなかった人が描かれていた。
綿谷昇を知っている、と残念ながら思う。そして春樹さんも、気付いたのだろうと思う。見抜いたのだろうと思う。それを物語という形をとって、複雑に表現した、しかしこれは現実の話だろうと思う。
身近にいる誰かの身に起きたことかもしれないし、ご本人が観察から察したことなのかもしれない。
水に気を付けてとどこからともなくメッセージがある。そして主人公は判然としないものと戦う。それがなんなのか、なにか手に取るようにわかるようだった。それが10年という時間なのだろう。
黒澤明の「悪い奴ほどよく眠る」を思い出す。現実は、かわはぎボリスのようなものだ。
しかし物語はそんな結末にはならなかった。決着が、ついた。決して全てが幸せではない決着だけど。それでもわたしにはうれしかった。
たとえ素晴らしい功績を残したとしても、綿谷昇のように政治家や大学教授やメディアの人気者になれたとしても、綿谷ノボルでは虚構の島なのだろう。
品のない、崩れた島なのだろう。
上品であることという最近の思いは、たまたまこの物語に帰結した。春樹さんの描いた世界はわたしからの願いでもあった。今この本を読み返せて、なんて抜群なタイミングなのだろうと思う。春樹さんが代わりに、13年も前に発信してくれてたのに。
わたしが19歳の時に、このことに気付けていたらまた世界は変わっただろうと思う。でもそんなの無理なのだ。今だからこそわかることもある。
そして今だからこそ、氷の張った池を転んで滑るアヒルを、ふかふかとした気持ちで思い描くことができる。それを現実のものとして、いつでも呼び寄せることができるのだろう。
ふかふかしたものや綺麗なものが、大地に根の張った力強いものだと。誰にも動かせないし侵されないとわたしたちは知っている。それを誰もが忘れないでほしいと思う。わたしの願いだ。

追伸:フィクション2という漫画には、なぜか井戸が登場してました。これもミクシ限定で公開してます。クロニクルのことは忘れていたけど、結局想いはここに繋がったような気がします。
by nemotyucac | 2007-12-11 01:21 | travel and stroll

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