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あめんぼうのようなもの

水たまりを見つけると、あめんぼうを探してしまう。
いないのは知っている。それでも薄い水の、雲と空を映し込む表面に波紋もたてずしかし慌ただしく横切る小さな生物の、ある日の存在ばかりが目に浮かぶ。それは校庭でわやわや遊ぶ子供のようでもあり、静止した記憶は、空を滑るように横切るジェット機の残像だ。
かっこつけ過ぎた。
航空ショーに行く。あのように曲芸をやられると居ても立ってもいられない。ぴょんぴょん飛び跳ねてはあれらに手を振った。わたしは30歳にもなるのだ!
帰り際米軍ハウスの在った公園のベンチで休む。後ろから少年が話しかけてくる。どう接していいかわからない。ニコニコする。すると喜んでベンチから落ちるふりをする。「おちちゃうよ−。このままでいるとあたまからおちちゃうー」などと言う。7歳くらいだろうか。
さてわたしは悩みながらも、相手をする。いろいろ言ってくる。「ハリ−ポッターだよ!…ヘラクレスオオカブトしらないの?」
そんな感情が!不思議とほこっとしたものが沸き上がってくる。
まだ明るく芝の緑が美しい。母親に了解をとると少年とわたしともう一人は芝生に駆け出した。フリスビーがひゅるひゅると空を舞う。わたしのそれはいつも美しい線にならないので少年は、わたしの腕を小さな両手で支え指示してくれる。「やってごらん」と言われその通りにすると、青い円盤は綺麗な弧を描いた。
細い手足をちょこまかと動かして、彼はいつまでも走り続けていた。
別れ際、こちらを見ようとしない。わたしたちは手を振る。振り返ってくれる迄振って、見えなくなる迄見送った。小さく消えていく瞬間の彼は母親の周りを楽しそうに廻っている、もうわたしたちを忘れているようだった。
わたしに切ない記憶を残したのは、夕闇の芝生をぐるぐると不器用に回る小さな生物か、薄曇りの水色の空をぐるぐると優雅に舞う青い羽虫か。
あめんぼうのようなもの_e0086807_15145595.jpg

by nemotyucac | 2005-11-05 02:39 | travel and stroll

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